【そして君に会いに行く】@
岩瀬が石川の補佐官となって数ヶ月。季節は夏へと変化していた―
「教官!また置いていきましたね!!」
「…仕方ないだろう…緊急だったし…」
「ですが!何度目だと!!」
「あー。ゴメンゴメン。次こそは知らせるから…」
「…それも、何度聞いたことか…」
「ゴメンって言ってるだろう!!しつこいなー…」
「あっ!今『ウザイ』とか思ったでしょう!!」
「……」
「結構。傷つくんですからね!!」
「…はいはい…」
毎日の日課となりつつある、石川と岩瀬の言い合い(もしくはじゃれ合い<笑)に他の隊員たちは和やかな雰囲気になっていた―
今日は三ヶ月に一度の館内点検日だ。
石川と岩瀬は午前中は館内巡回に。午後からは中央管理室の点検に合流する予定だ。なので、午前中の今は館内を巡っている。
言い合いをしている石川達を微笑ましく見て、手が止まっている隊員を見て、岩瀬が…
「教官…点検が予定時間をオーバーすると減給ってホントですか…?」
「…場合にもよるな…。だが…」
そこで、隊員達の方へ振り向いた石川は、ニッコリと笑い―
「そこの班は遅れたら減給だな。」
「えぇ…!」
「嫌なら早くしろよ?あ。ご飯はキチンと食べること!!ご飯抜きも減給だから。」
「「「はいっ」」」
艶やかな笑みを残し、石川はその場を去る―
が。
極上の笑みを真正面から見た隊員たちは暫し固まる…
彼らが時間内に終了したか如何かは、また別の話で―
+ + + +
「教官。午後からは中央の点検ですよね?」
「そうだが…どうかしたのか?」
「いえ…。でも定期巡回は行くのですよね?」
「あぁ。そのつもりだ。…なにかあるのか?岩瀬」
「いえ、なんでもありません!」
何時もと違い、今日は朝から何処となく落ち着きのない岩瀬に石川は眉をひそめる…
「岩瀬…言いたいことがあるなら、聞くぞ?」
「えっ!?…いえ…その…なんでもないですから!!…あ。そろそろ昼食の時間ですよ?食堂に行きましょう!!」
明らかに話を逸らした岩瀬を不審に思いながらも、石川は岩瀬の後をついて、食堂へと向かった―
+ + + +
昼休憩が終わり、中央管理へと戻っている間も岩瀬の様子は何処か落ち着きがない―
石川は一つ溜息をついて…
「…岩瀬…今朝から何をそんなにソワソワしているんだ…?悩み事か?私でよければ聞くが…?」
「え!?…いえ…その…」
岩瀬が普段らしからぬ、歯切れの悪さを発揮する。
その様子に益々、石川は眉をひそめ―
「…私では頼りないなら、他の誰かにでも相談すれば良いんじゃないか…?」
「ぇ!!いえ!石川さんが頼りないなんて…!そんな事思ったこともないですよ!!」
「…だったら、なんだ?」
「…う…それは…」
暫し、沈黙が流れる―
そして、岩瀬が改まって口を開いた。
「教官…いえ!悠さん!!」
「…岩瀬…今は仕事中…」
「聞いてください!」
「…はい…」
石川は岩瀬の迫力に負けて、思わず返事をする…。
「その……今夜…時間クダサイ…」
「は…?あ、あぁ…解った。今夜だな?」
「はい…」
先ほどの妙な迫力はなんだったんだ!?と云う位の申し出の内容に、石川は面食らってしまう。
「…用件は以上か?」
「…はい…」
「じゃあ、今晩な。」
「はい…」
岩瀬は返事と共に、深い溜息をついていた―
+ + + +
午後からの中央管理室での点検も無事に終了し。
石川と岩瀬は寮へと戻っていた−
「そういえば…岩瀬、私に話があったんだよな?」
「え…はい…」
「どうする?部屋に行ったほうがいいのか?」
「いえ…そんなに長い話ではないんで…」
「じゃあ…」
「お部屋まで送りますよ」
「あ…あぁ…」
石川は「それでいいのか?」と、目で訴えていたが…
岩瀬は困ったように笑って、石川を促す。
無言で歩き出した岩瀬と歩く石川は。
『コイツの悩みって…?一体なんだ!?普段から、意見がはっきりしていて。物怖じしてなくて。私も"人を守る"仕事だが…。岩瀬みたいに、あんな風に…私を守るみたいに他の人を守れない…。それとも、SPというのは誰でもこんな感じなのか…?』
チロリと岩瀬の姿を目の端に止め−
『それとも…岩瀬が特別なのだろうか…?あの、広い背中で一体、何人の人々を守ってきたのか…。でも…腕の中は意外と居心地がよくて…』
と。そこまで考えて、石川ははっと気づく。
『っっって!!!!…何を考えているんだ!私は…。今はそんな事じゃなくて、岩瀬の相談事だろう…!!』
一人、あたふたと。
自分の考えにうろたえていると−
石川の部屋の前へと辿り着いた。
「石川さん?着きましたよ?」
「あ…あぁ…。ところで、岩瀬?相談って…なんだ?」
石川は自分の赤い顔を見られたくなくて…岩瀬へと話を振る。
すると、岩瀬は一瞬考え…
思い切ったように石川を見た。
そして−
「…あの…石川さん、俺は貴女が好きなんです…」
「…はっ…?」
岩瀬の突然の告白に、石川は一瞬何を言われたのか分からず…
間の抜けた返事を返した。
+ + + +
「はっ…?」
いきなりの告白に、思考停止状態の石川に岩瀬はもう一度。
ゆっくり。はっきり。同じ事を言った―
「石川さん、貴女が好きなんです…」
そして、ゆっくりと顔が近づき…
吐息も触れようか…という距離で、我に返った石川が岩瀬の胸をドンッと突き放す―
「///なっ…」
先ほどの比ではない位。顔を赤くした石川は半分泣きそうな顔で岩瀬を睨みつけ―
「冗談だろう…?」
「いいえ。本気です。初めて貴女にあった時から…」
「そんな…」
ウロウロと視線を彷徨わせ…石川は動揺を隠せない。
そんな石川を見て、岩瀬は…
「…今日は告白だけなんで…そんなに緊張しないでクダサイ…」
苦笑していた顔が一瞬だけ本気の瞳になる。そして―
「…でも、いつか必ず俺を好きにさせますから…!」
「なっ…!岩瀬!?」
「では、おやすみなさい。石川さん」
チュッと頬っぺたにキスを送り、岩瀬は素早く身を離し。自室へと戻っていった…
隙をつかれた石川は…
「…岩瀬…!全く…油断も隙もない…」
岩瀬の触れた頬が熱くなるのを感じていた―
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